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津地方裁判所 平成9年(ワ)159号 判決 1998年9月02日

主文

一  被告株式会社アイピーエス・コーポレイションは、原告に対し、別紙物件目録<略>の物件を引き渡せ。

二  被告らは、原告に対し、連帯して平成九年九月一日から右物件引渡ずみまで一か月金八九万六四七六円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは原告に対し、連帯して別紙物件目録<略>の物件を引き渡せ。

二  被告らは、原告に対し、連帯して平成九年七月一日から右物件引渡ずみまで一か月金八九万六四七六円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、電波妨害測定機器をリースした原告が、リース契約の終了を主張して、被告らに対し所有権に基づき機器の引渡等を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  被告株式会社アイピーエス・コーポレイション(以下「被告会社」という)は、平成四年六月一日「株式会社コスモス・コーポレイション」の商号をもって設立されたが、後に商号を「株式会社アイピーエス・コーポレイション」と変更した。

2  原告は、別紙物件目録<略>の物件(以下「本件物件」又は「本件測定機器」という)を所有している。

3  原告は被告会社に対し、平成四年六月三〇日、本件物件を、賃貸期間同年七月一日から平成九年六月三〇日まで、一か月の賃料八九万六四七六円、毎月一〇日支払の約定で貸し渡した(以下「本件リース契約」という)。被告甲野太郎(以下「被告甲野」という)及び被告乙川一夫(以下「被告乙川」という)は、被告会社の右債務につき連帯保証した。

4  被告会社は原告に対し、平成九年七月一〇日一年分の再リース料として、平成一〇年七月一〇日一年分の再リース料として、それぞれ八九万六四七六円を支払い、原告は平成九年七月一日から各一か月分、合計二か月分のリース料相当損害金としてこれを受領した(甲一四、一五、乙一二、弁論の全趣旨)。

二  原告の主張

1  リース期間満了による本件リース契約の終了

本件リース契約書一四条は、「甲(被告会社)はリース期間終了後双方の話し合いによって、再リース契約をするか、残存価格で売買するか決める。」とされているが、右規定は「甲及び乙(原告)」とすべきところ、「乙」が脱落したと解すべきである。その理由は、第一に、右条項上、甲(被告会社)だけが勝手に決めるものではなく、双方の話し合いによって決めるものとされており、甲(被告会社)と乙(原告)の意思が一致した場合に再リースか売買かが決まることが予定されていること、第二に、本件リース契約は、いわゆるファイナンスリースではなく、双務契約としての賃貸借の性質をもっていることである。

本件において、再リースに関して原告と被告会社の合意は成立しなかったので、本件リース契約はリース期間満了により終了した。

2  本件リース契約の更新拒絶

仮に本件リース契約が更新されるとしても、同契約の前提となった提携関係(信頼関係)を被告会社が破壊したので、原告は同契約の更新を拒絶することができる。すなわち、原告はもともと被告会社との業務提携を前提に平成四年六月三〇日同契約を締結したところ、同年一一月六日被告会社はこれを裏切って、米国連邦通信委員会(米国FCC)に対し、被告会社の社名を、原告と競合関係にある株式会社アイテックの名称に変更する旨届け出た。右委員会の認定を受けた業者以外は米国への電気製品の安全証明を発行できないから、右名称変更の届け出は、原告が紹介した顧客に対してまでも提携関係先を変更したことを示す裏切り行為である。さらに、平成五年一月二二日の被告会社の取締役会議で、丙山春男(原告代表者)の取締役解任を議決するとともに、同年二月二一日の被告会社株主総会で同人を取締役から解任した。

3  本件リース契約の更新と原告の解約

仮に本件リース契約が更新されたとしても、リース料は従前と同様の金額(一か月八九万六四七六円)になるはずであり、被告会社は平成九年八月一日以降これを支払っていないので、原告は被告会社に対し、平成一〇年六月三日付準備書面により右契約を解除する旨の意思表示をなし、右準備書面は同日被告ら代理人に到達した。したがって、本件リース契約は原告の解除により終了した。

三  被告らの主張

1  本件リース契約書一四条は、明確に被告会社の更新請求権を認めている。本件契約のリース料の算定は、物件購入代金からリース期間満了時の残存価格を控除しない、いわゆるフルペイアウト方式によっている。このようなリース契約は、原則としていわゆるファイナンスリースであり、ユーザーに更新請求権が認められる。すなわち、本件では被告会社に再リースの選択権があり、原告に選択権はない。

再リース料については、本件のようなファイナンスリースの場合、従来のリース料の一〇分の一か、一二分の一の金額となるのが商慣習であり、被告会社は、再リース料を、従来のリース料の一二分の一である年額八九万六四七六円と主張する。

2  本件物件のうち、アンテナタワー、ターンテーブルはコンクリートで固定されており、これを返還することは事実上困難である。また、仮に解体したとしても、これを再利用することは全く考えられない。

シールドルームは、建物と一体となっており、これを解体して返還することは、契約当時、当事者は全く予想していなかった。仮にこれを解体しても、市場価値や利用価値は全くない。

また、コンピューター類やソフトについても、契約締結から五年以上も経過したので、市場価値や利用価値はなく、これらを第三者が再利用することは全く考えられない。

3  原告は、本件リース契約により三八〇万円の純利益を挙げているのに対し、被告会社は原告から何ら特別の利益を与えられていない。

4  したがって、リース期間満了により本件リース契約は終了していない。また、原告と被告会社との提携関係の破壊により原告が本件リース契約の更新を拒絶できるとの合意はなかった。

5  被告会社は原告に対し、平成九年七月一〇日、同月一日から一年分の再リース料として八九万六四七六円を支払い、平成一〇年七月一〇日、同月一日から一年分の再リース料として八九万六四七六円を支払ったので、再リース料不払を理由とする契約解除の主張は理由がない。

四  本件の争点

1  本件リース契約はリース期間満了により終了したか。

2  原告は、本件リース契約の更新を拒絶できるか。

3  更新されたリース契約は解除により終了したか。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和六三年一〇月コンピューターとその周辺機器等及びこれらの部品の安全規格取得の申請代行、これらの機器類の電波障害測定業務等を目的として設立された。原告の有力な取引先にセイコーエプソン株式会社(以下「セイコー」という)があり、同社からは海外の安全規格取得の申請代行の発注を受けており、当時のセイコーの右担当者は現在の被告会社代表者の被告甲野であった。

2  平成二年初めころ、被告甲野から原告に対し、電波障害測定業務を行う会社の設立と起業に協力してほしいとの要請があった。セイコーにおける被告甲野の同僚であった0が代表者となって被告会社を設立し、原告が資金・技術を援助して業務を始めることにした。こうして、平成四年五月二五日被告会社を設立し、0(一二〇株六〇〇万円出資)が代表取締役、S(四〇株二〇〇万円出資)と原告代表者(四〇株二〇〇万円出資)が取締役となった。

この当時の被告会社の商号は、原告と全く同じである「株式会社コスモス・コーポレイション」とし、被告会社と原告を提携関係におくこととした。

3  被告甲野と0は原告代表者に対し、平成四年三月ころ、測定機器をリース会社から被告会社がリースを受けるにつき原告代表者個人に担保提供ないし連帯保証を求めてきた。しかし、原告代表者はリスクが多すぎるとして断った。

結局、原告代表者個人の財産を担保に入れ、原告が借入をして本件測定機器を購入し、それを原告が被告会社に対しリースする方法をとることとした。そして、同年六月三〇日本件リース契約を締結した。

4  被告会社は、平成四年一二月八日株式会社アイテックと提携関係を結んだ。原告代表者がこれに反対したため、被告会社は、平成五年一月二二日臨時取締役会を開いて、原告代表者を被告会社取締役から解任する臨時株主総会の開催を決議し、同年二月二一日の臨時株主総会で右解任を決議した。

また、それ以前の平成四年一一月、被告会社は米国FCCに親書を送り、社名をコスモス・コーポレイションからアイテック・コーポレイションに変更した旨通知した。

二  本件リース契約はリース期間満了により終了したか(争点1)。原告は、本件リース契約の更新を拒絶できるか(争点2)。更新されたリース契約は解除により終了したか(争点3)。

1  <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社が本件と同様の測定機器をリース会社からリースを受ける場合、原告代表者の連帯保証が必要であったが、これを原告代表者が断ったため、原告代表者の個人保証により原告が借入をして本件測定機器を購入し、被告会社に対しリースすることとした。原告代表者としては、右機器が原告の所有となるので、右方法を採用した。当然、原告はリースを専門とする会社ではない。

被告会社としては、右機器をリース会社からリースする場合と比べて、原告からリースする場合は月額で約一七万円高かったが、原告代表者が連帯保証を断ったため、リース会社からはリースを受けられなかった。

(二) 本件リース契約書は原告側で作成して、被告会社の同意を得て調印した。右契約書によれば、被告会社は、リース期間終了後双方の話し合いによって、再リース契約をするか残存価格で売買するか決める(一四条)とされている。なお、再リース料についての規定は存しない。また、<1>被告会社は、リース期間満了前に契約を解除することはできない。ただしやむを得ない事由があり、原告が承諾した場合はこの限りではない(三条)、<2>原告は、リース物件についての担保責任や保守、修繕義務を負担しない(五条、七条参照)、<3>被告会社の契約違反があった場合、被告会社はリース料についての期限の利益を喪失し、即時リース料残額の支払義務を負う(一一条)とされている。

(三) 本件リース料については原告側で計算し、機器購入額三八〇〇万三〇〇〇円と消費税一一四万〇〇九〇円と保険料等の経費の合計四九九八万八二五二円に原告の手数料(原告の利益。機器代金の一割)三八〇万〇三〇〇円を加えた額を六〇回(五年間の六〇か月)で割った八九万六四七六円を月額リース料と決定した。

2  右認定事実のうち1(二)の<1><2><3>の条項及び(三)のリース料算定方法に注目すると、本件リース契約はいわゆるファイナンスリース契約の特徴を有している。しかしながら他方、右一及び二1の認定事実によれば、原告はリース業を営む会社ではないこと、本件リース契約は被告会社の設立に関する原告らの話し合いの結果締結されたこと、原告代表者としては投下資金の回収のみならず、本件機器購入資金借入の危険を負うため、右機器の所有権を取得することに着目したことなどが認められるので、本件リース契約、特に再リース契約は賃貸借契約の性質を有するというべきであり、本件の争点に関しては、リース契約の性質論のみではなく、本件リース契約書の文言と当事者の意思、契約締結に至る経緯、その他諸般の事情を総合して判断すべきであると解する。

3  そこで検討するに、本件リース契約書一四条については、右契約書は原告が作成したこと、右契約はファイナンスリースの特徴を有していることなどに照らし、被告会社に再リース契約をするかどうかの選択権を与えたものと解する。もっとも、再リース契約の条件は「双方の話し合いによって」決せられる。

本件においては、被告会社が再リース契約を選択したので、本件リース契約が期間満了により終了したものとは認められない。

また、一般に信頼関係破壊によりリース契約の更新を拒絶できるとはいえないし、前記認定事実によるも、本件において原告が信頼関係の破壊を理由として本件リース契約の更新を拒絶できるものとは認められない。

4  そこで、再リース料について、被告らは従来のリース料の一〇分の一ないし一二分の一となる商慣習があると主張する。

しかし、前記のとおり本件リース契約は純然たるファイナンスリースであるとはいえず、再リース契約は賃貸借の性質を有すると認められるし、本件契約書によれば再リース契約の条件は「双方の話し合いによって」決せられるものとされ、再リース料に関する規定はない。

右諸事情及び前記認定事実を総合すれば、本件において再リース料が被告らの主張するとおり従来の一二分の一である年額八九万六四七六円であると認定することはできず、相当な再リース料を認めるに足りる証拠もない。

そうすると、月額リース料は、従来のとおり月額八九万六四七六円であると認めざるをえない。

前記のとおり、被告会社は原告に対し、平成九年七月一〇日及び平成一〇年七月一〇日、それぞれ八九万六四七六円を支払ったのみであるから、原告の本件リース契約解除の意思表示(平成一〇年六月三日被告会社に到達)により、右契約は終了した。

5  被告らは、本件物件のうちアンテナタワー、ターンテーブル、シールドルーム等の引渡は事実上困難であると主張するが、本件リース契約書一二条では被告会社の本件物件返還義務が明記されていることなどを考慮すると、被告会社が本件物件の引渡義務を免れることはできない。

なお、連帯保証人である被告甲野と被告乙川は、本件物件の引渡義務を負うことはないので、同被告らに対する引渡請求は理由がない。

また、前記のとおり被告会社は原告に対し平成九年七月一日から二か月分のリース料に相当する金員を支払ったので、被告らは同年九月一日から本件物件引渡ずみまでのリース料及びリース料相当損害金の支払義務がある。

三  結論

よって、原告の請求のうち被告甲野及び同乙川に対する引渡請求は理由がないが、その余の請求は理由がある。なお、仮執行宣言は相当でないので付さない。

(別紙)物件目録<略>

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